私の恩師である山本巖先生は、西洋医学と東洋医学のどちらも尊重していました。
どちらにも優れた面があり、それをいずれも採用・統合することで、病気を治すことを目指したのです。
山本先生が築いた第三医学について、山本先生のルーツをたどりながらご紹介します。
山本漢方医学と一貫堂
目次
一貫堂医学について
一貫堂医学は、森道伯先生(1867~1931)が創始した一貫堂流後世派である。
曲直瀬流後世派をそのまま継承するものでなく、異質の医学体系を有する流派である。
人の体質を三大証( 瘀血(おけつ) 証・臓毒証・解毒証)に分類し、通導散・防風通聖散・柴胡清肝湯・荊芥連翹湯・竜胆瀉肝湯の五処方を運用して体質改善を行った。
同流派はこの五処方をはじめ、曲直瀬流の処方を頻用したため後世派の後継と見なされた。
現代の難病・慢性疾患・生活習慣病の治療・メタボ体質改善や予防に応用できる、極めて有効で実践的漢方医学である。
ここからは、以下について解説し、考察を行う。
- 一貫堂医学の歴史と処方解説
- 森道伯先生の直弟子・矢数格先生から薫陶を受けられた漢方舎・中島紀一先生の一貫堂医学
- 第三医学創始者・山本巖先生の一貫堂医学
一貫堂医学の三大体質
■解毒証体質
結核にかかりやすい体質
■瘀血(おけつ)証体質
癌や慢性疾患にかかりやすい体質
■臓毒証体質
中風や糖尿など生活習慣病・メタボにかかりやすい体質
解毒証体質とは
扁桃腺炎・中耳炎・蓄膿症を同一の病気とした。
腺病質と考え、解毒薬を用いた。
四物黄連解毒湯(四物湯合黄連解毒湯)を
ベースにした処方で体質改善
幼年期・・・・・柴胡清肝湯・・・扁桃腺炎、中耳炎など
青年期・・・・・荊芥連翹湯・・・蓄膿症、肋膜炎
青年期以降・・・竜胆瀉肝湯・・・下焦の疾患、膀胱炎
瘀血(おけつ)証体質とは
「万病回春」折傷門に記載されている、
通導散 クラッシュ症候群、むち打ち、打撲 捻挫
きゅう帰調血飲第一加減 産後の聖薬
治打撲一方、桂枝茯苓丸
駆お血薬+大黄+桃仁+牡丹皮
臓毒証体質とは
表裏、三焦の実熱で発表攻裏の清熱剤
体内に充満している病毒を皮膚表面から発表し、腸管から攻め下し、解熱し、また、利尿によって水毒を排泄しさらに発表、攻下が過ぎないように中和させるよう注意がされている。
臓毒証体質には、防風通聖散を用いる
●攻下・・・大黄・芒硝・甘草・・・・・・・・・・・・・便 (調胃承気湯)
●発表・・・麻黄・防風・荊芥・・・・・・・・・・・・・発汗
●清熱・・・黄ごん・山梔子・石膏・滑石・・・・・・・・・解熱
●解毒・・・連翹・桔梗・荊芥・防風・川きゅう・・・・・・・解毒、排毒
●利尿・・・白朮・滑石・・・・・・・・・・・・・・・・尿
●中和・・・当帰・芍薬・川きゅう・白朮・薄荷・・・・・・・緩和
中島紀一(随象:ずいしょう)先生の一貫堂医学について
中島紀一先生とは
矢数格先生に一貫堂医学、明石藩御典医の柳川杏窓先生に古方の薫陶を受ける。
一貫堂処方を多く運用されたが、古方の弁証論治に基いた中島流一貫堂であった。
中島流漢方の大綱
「病は邪である。その治療は瀉法である。」
「補は正気を補うもの、直接病邪を除くものではない。正気を補い、正気を充実すれば病邪を制することができる。」
「諸悪の根源は、血である。血というものを重視せよ。病百のうち百までは血で解決する。」
血圧測定による弁証論治
・最低血圧が高いときは、通導散を使え。
・最低血圧が低下する場合は、竜胆瀉肝湯、黄連解毒湯を用いる。
・最高も最低も、ともに低いときは、きゅう帰調血飲の加減を用いる。
・最高血圧が140~130と低くても、最低血圧が100mmHg以上であれば通導散を用いる。
・最低血圧が高いときは性器・腸出血あっても止血剤を用いず、通導散でお血を除くべきだ。
中島先生の癌療法
・中島先生は、「癌に対して通導散を使え」と遺言された。
・子宮癌に通導散と防風通聖散の合方
・舌癌に竜胆瀉肝湯あるいは防風通聖散加白し・きょう活・柴胡・升麻
・乳癌に荊防敗毒散加黄連、大黄あるいは、防風通聖散合方
・通導散は癌に対してある程度の効果はある。
・癌の痛みに対しても効果がある。(主薬は蘇木)
・末期の痛みに、早い時期より服用すると痛みを訴えない。
物質代謝面から見た体質分類
①胃腸の働き弱く消化吸収から同化作用が悪い体質の者
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
気虚の体質になり、四君子湯類や補中益気湯の類である。また防風通聖散で異化作用を促進し、同化作用を喚起する方法をとることもある。
②同化作用は非常に良いが中年から異化作用が衰えて、脂肪沈着や中間代謝物の排泄が充分でなく生活習慣病・メタボになる
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
臓毒体質で防風通聖散
③子供の頃からエネルギー代謝が亢進しいくら食べても太ることのない。
゛七儲けの八使い゛で陰虚 解毒体質
中耳炎・扁桃腺炎・蓄膿症・結核に罹患しやすい。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
解毒体質で柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯
山本漢方医学と一貫堂
●通導散・・・・・悪性腫瘍、打撲・外傷
●防風通聖散・・・脳血管障害、代謝異常症、めまい
●竜胆瀉肝湯・・・泌尿器疾患、肝胆疾患
●荊芥連翹湯・・・蓄膿症、ざ瘡
●柴胡清肝湯・・・慢性化膿性中耳炎、慢性扁桃腺炎、小児疾患
●きゅう帰調血飲第一加減・・・リウマチ、潰瘍性大腸炎、子宮内膜症、月経困難症
山本巌先生の考え
瘀血(おけつ) について
①駆お血剤を使うと良くなる病気をお血という。
②難治性疾患はお血が絡む。
③固定性で夜間に強くなる痛みは、お血である。
④古人のつくった臨床的仮説と近代医学の眼が捉える血液の停滞現象との間には大きな距離がある。
⑤お血の血という概念と現代医学の血液を同じように考えている。お血の病態はもっともっと広いものだろう。
止血に関して
①四物湯系は、凝固系に働きかけ、黄連解毒湯系が血管収縮に働きかける感じがする。
②全くお血のない出血は少ない。また、長期・大量の出血の場合は気血両虚、陰虚などが加わってくる。そのため、四物湯系や黄連解毒湯などの止血薬を用いるか、駆お血薬を 用いるかなど色々な面に対して配慮しなければならない。
③血管の異常はもっと解明されると思うが、私は充血は血熱でうっ血はお血であると考えてそんなに間違えでないと思う。
一貫堂医学に対する山本巌先生語録
①一貫堂三大証分類と五方による治療は、疾病をおこす体質を捉え、体質改善を行う予防医学である。
体質分類(弁証)と五方による治療(論治)をするまったくなかった医学である。
②これが最良という固定的な考え方でなく、その時代その時代に応じ、病をどう捉えて、これにどう対処するかを示された医学である。
③この三大証五方は、大正末期から昭和初期の頃の疾病を対象としたものである。
もし森先生がご存命なら五大証、十大証と発展させられたと思う。
我々は、その時代の病相・世相に応じその病をどう認識しどう対処すべきかという心を学ばなければならないのではないか。
山本巌先生語録
「生きがい? 楽しみ? やっぱり治療やろうなぁ。
それも出来るだけ難病がええ。
むずかしい病気、人がサジを投げた病人と 相対して治療の手がかりつかんだときが一番うれしい。
何が専門? そんなもんない。なんでも全てやる。
これまで手がけた具体例?
あるけど言いとうない、宣伝くさいのは嫌いや。
片意地やから万人向きでないが、来る人は来たらええ。」
壮健ライフ 「漢方名医に聞く」 1986年2月号より
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